世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたいすべての人のヒントになれば幸いです。

プラスチックゴミによる海洋汚染を訴えるアイデア その1

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Photo by Jon Eckert on Unsplash

長年世界のソーシャルキャンペーンを見ていると、そこにもトレンドがあることがわかります。近年特に、世界的問題として浮かび上がってきているのがプラスチックゴミによる環境破壊。ということで今週と来週は、私がブログの更新をさぼっていた間に実施された、この問題に関するインパクトあふれる取り組みを紹介しようと思います。

 

今週紹介するのはこちら。7,000以上の島々で構成される海洋国家フィリピンでは毎年、プラスチックゴミをエサと間違えて飲み込んでしまい、命を落とす海の生き物がたくさんいます。ただ、身の回りのことで忙しい人々はなかなか関心を持ってくれません。そこでフィリピンのグリーンピースが行なった取り組みとは・・・

 

www.youtube.com

 

彼らはプラスチックゴミで大きな鯨の死体を作り、海に展示しました。このアイデアのキモは、遠目には本物の鯨かとだまされるぐらいにクラフトされた「展示物の精巧さ」と、海の問題について各国の首脳が語り合うASEANサミット前日にそれを実施したという「タイミングの巧妙さ」。これらにより「旬な話題」としてマスメディアに取り上げられつつ、SNS上でもこの展示に実際に触れた人々による記事が拡散するという、理想的なPR展開を行うことができたようです。

 

実際にどれぐらいの予算がかけられたものかはわかりませんが、プラスチックごみをユニークな形で活用するだけでフィリピン中、いや世界中の人々の脳ミソにこの問題の深刻さをすり込むことに成功した、という点で、とても秀逸で勇敢なアイデアだと思いました。

 

さて、これでブログ復帰から4週間がたちました。なんとな〜く、昔の感覚が戻ってきた気がします。アイデアって、本当にイイものですね。それでは皆様、また来週!

身近なものからサステナビリティ!

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Image by Adriano Gadini from Pixabay

温暖化が進み、台風の大型化など、異常気象の常態化が進んでおります。いよいよ人類の活動に地球が持ちこたえられなくなってきているのかな、と感じますが、ここでくじけてはいけません。コンビニでもビニール袋を受け取らない。マイボトルを持ち歩く。そんな小さな積み重ねが、徐々に周りの意識を変化させ、ついには人々の暮らしをもっとサステナブルにしていくのだと思います。

そして、こんな時代の転換点でこそ必要とされるのがアイデアの力。下のリンクをクリックいただけると、アメリカの大学のデザインチームが考えた、とってもサステナブルな「新しい歯磨き粉のパッケージ」のアイデアをご覧いただけます。

 

www.yankodesign.com

 

…ご覧いただけましたでしょうか?

 

よく考えたら、商品棚の歯磨き粉がわざわざ箱に入っている必要はないですよね。さらにチューブがプラスティックではなく、生分解性のものだったらどうでしょう?記事によると、インクも色味を減らすことで、ケミカルなものを使わずに済むそうです。

個人的にはやはり、消費者にとってはあまり必要でない箱の無駄を削いだ点と、売り場にすでにある歯ブラシ用のフックにそのままかけられる、という実用性がとても賢いな、と思いました。

 

デザインやアイデアには、理屈を超えてこのように1発で、「こんなのがあったら欲しい!」「あったら買う!」と、人の心を動かす力があります。

 

このような発想でぐんっ、と無駄を削ぎ落とせるものはまだまだ、この世に隠れていそうですね。そう思うと、明日から街を歩くのがまた、楽しくなりそうです。

 

それでは、また来週!

パラリンピック・イヤー、はじまりました!

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さぁ、2020年はパラリンピック・イヤーです!ところが2年前の平昌冬季五輪開催時、カナダのテレビ局にはパラリンピックを放送する予定がほとんどありませんでした。このままでは選手がいくら頑張っても、人々は見てくれません。そこでカナダのパラリンピック協会が何をしたのかというと…

vimeo.com

登録した人々のFacebookや、Twitterのアカウントに自動的にパラリンピックのライブ映像がシェアされるアプリを開発しちゃいました!つまり、パラリンピックのファンやサポーターたちによる独自の放映ネットワークを作ってしまったワケです。

計算方法はわかりませんが、上のビデオによると、視聴率が11.464%上がり、カナダ史上、最も試聴されたパラリンピックになったとか。

この仕組み、5G時代が来ればパラリンピアンとのリアルタイム交流など、もっといろんなことができそうな可能性を感じます。 

 

それでは、また来週!! 

ソーシャルグッドのタネ探し、2年ぶりに再開します。

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Image by Alexas_Fotos from Pixabay

皆様あけましておめでとうございます!ここ数年は海外赴任やモチベーションの変化などがあり、しばらくこのブログから遠のいておりましたが、色々と落ち着いてきましたのでまた世界中から、社会に役立つユニークなネタを探してお届けしたいと思います。

しかもいいことに(?)、私がブログをサボっている間にもすばらしいアイデアがどんどんと世に出ております。張り切って紹介してまいりますので、引き続きお楽しみください。

ブログ復活第1段はこちら。ルーマニアの最大手電力会社Enelが現地の鳥類保護団体とコラボで取り組んだ、すばらしい取り組みです。

アフリカから北上し、ルーマニアにやってくるコウノトリの大群。彼らの多くは電信柱の上に巣を作り、結果、電気による出火で毎年、何千羽ものコウノトリが命を落としているそうです。そんな悲劇を防ぐためにEnelと鳥類保護団体が編み出したアイデアとは・・・?


Enel & The Ornithological Society of Romania "The Nest Address" (Publicis Romania)

コウノトリ専用・位置特定アプリの開発」です。コウノトリの巣を電柱の上に発見したら、アプリを開いて撮影するだけ。それだけで電力会社がGPSで巣の場所を特定し、引火しないよう巣をかさ上げしてくれる、というアイデアです。私はルーマニア国民ではないのでこのアプリを人々がどれだけダウンロードする気になるのか不明ですが、スマホGPSを駆使した取り組みとしては、とても賢いと思いました。

コウノトリ、という題材もいいですよね。

それでは、また来週!!

 

販促と捨て犬問題の解決を両立!イスラエル発の見事なキャンペーン - Samsung Adoption package

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企業活動において、本業とCSR(企業の社会的責任)活動は分けて考えられがち。

でも今回はその垣根を超え、製品の特徴をフックに社会問題の解決とセールスプロモーションを両立させてしまったイスラエル発のソーシャルキャンペーンを紹介します。

大谷選手しかり、そしてこのアイデア然り。今年は垣根を超えてハイブリッドなものが世界レベルで次々と始まる年なのかもしれません。

Samsung Adoption package – サムソン引き取りパッケージ>


Samsung Adoption package case study

<和訳>

ナレーション:イスラエルでは、何千匹もの捨て犬が暖かい家に引き取られるのを待っている。問題は、捨て犬を引き取ることを検討した人のうちの37%が、犬から抜け落ちる毛や汚れなどを理由に引き取りを諦めていること。

そこでサムソンは、毛の絡まりを防ぐ機能付きの掃除機のローンチと合わせて、“Let the animals live (いきいき動物会)”というイスラエル最大の動物愛護NGO団体とパートナーシップを結び、捨て犬たちを助けることにした。

私たちは実際に飼い主を探している犬を起用して、引き取りをアピールする6本のコマーシャルを制作。見る人々の心を動かした。

(タイトル:“メディア・インプレッション=350万”“シェア数=7,700”“コメント数=153,000”)

CM内ナレーション:

“彼女は生後5ヶ月の可憐なカーラ。シェパードのミックス犬で、一日中元気に遊ぶ彼女は、あなたのお家にも楽しく愛らしい雰囲気をもたらしてくれることでしょう。幸せと、愛と・・・そして本当に、たくさんの抜け毛とともに。でもそれを気にする必要はもう、ありません。「サムソンの引取りパッケージ」

では犬とセットで、髪の毛や抜け毛の絡まりを防止する最先端機能が付いた、サムソンの新しい掃除機をご提供。なのでぜひ、犬を引き取るスペシャルイベントであなたの一匹を見つけてください。2018年2月16日、テルアビブで開催です!”

ナレーション:イベント当日は、何千もの人々がテルアビブでの引き取りイベントに来場。結果、このNGO団体がこれまでに開いたどのイベントをも凌ぐ盛況となった。

そして、全ての犬と、掃除機が暖かい家にたどり着くことに。

(仔犬たちと、引き取り手の写真が名前付きで次々と映し出される)

“サムソン絡まり防止機能付き 犬を引き取ろう

困っている人の立場を、きちんとイメージさせるには? -Through the eyes of a refugee

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忙しくなる一方のこの世の中。困っている人の立場を、きちんと認識して自分の意見を持つのは難しいもの。しかしみんなにきちんと考えてもらわないと、一部の極端な考えに社会全体が流されてしまう。。。

そんな流れを食い止めるのが、アイデアの力。

アムネスティ・インターナショナルによるこのオンラインムービー は、シリアなどからの難民がどのような苦難を乗り越えてきたのか、そして彼らも自分たちと変わらない人たちであることを思い出させてくれます。

・・・催眠術を使って。

<Through the eyes of a refugee/ 難民の目を通して>


Through the eyes of a refugee - a project by Amnesty International

<和訳>

難民を受け入れるのは難しいという人たいがいる。しかし彼らが、同じ目にあったらどう感じるだろうか。我々は普通の人々に、催眠術で難民がたどった旅路を体験してもらった。これはその記録である。

<ジョス・クラウス 催眠術師>

アムネスティ・インターナショナル提供 難民の目を通して>

ジョス「来てくれてありがとう。座って。」「あなたにはこれから、難民、シリアからの難民の旅路を体験してもらいます。…催眠術で。」「指に集中して。指が下がると、まぶたが重くなってきます。そしてどんどん、催眠の世界に入っていきます。潜在意識が呼び覚まされて、あなたは私のいうこと全てに従います。私のいうことを、あなたはとても強く感じるようになります。…」

ジョス「それは何週間も続いた。あなたは長く包囲された街で暮らしていた。仕事から帰ると突然、銃声を聞いた。それは徐々に近づいてきて、あなたの家を銃撃した。ロケット弾が飛び込んで来て、爆発した。あたりは粉塵に包まれ、ほとんど息ができない。」

(咳き込む実験者たち)

ジョス「気がつくと、一番下の弟と妹が見当たらない。…やがて瓦礫の中に、その子たちの服が見えることに気づく。あなたはその子たちの服の切れ端を集める。お気に入りのぬいぐるみや、そして最後には、その子たちの体の一部も。」

(嘆き悲しむ実験者たち)

ジョス「3ヶ月後。あなたは家族と別れ、一人で町を出る。ガタガタの古いバスに乗って。ひどく暑く、鼻につくガソリンの匂いに死にそうな気分になる。警官がバスを止めると、パニックが起きる。他の乗客を追い、あなたは逃げだす。乗客たちとともに、ひたすら逃げる、逃げる…」

ジョス「8日後。あなたは小さなボートにいる。海のど真ん中で、波は高く、凍える寒さだ。震えをこらえ、別の難民たちのボートを見ると…なんてことだ!男たちが大きなナイフをボートに突き刺している!」

(叫ぶ実験者)

ジョス「船は沈み、溺れた難民たちの叫びにあなたはもう耐えきれない。」

(「こっちに来い!」「助けろ!」と叫ぶ難民たち)

 ジョス「そして今。あなたは難民キャンプにいる。どこも物が腐った匂いで充満している。あなたは何日も何も食べていない。口に入りそうなものはどれも、腐ったものばかり。そしてあなたは病気にかかる。」

(えずき、悲観にくれる実験者たち)

ジョス「最後、あなたはギリシヤ人の女性に助けられる。彼女は、あなたが公式な難民としてオランダへ行く申請を手伝ってくれた。…あなたは、ついに自由の身になった。」

ジョス「…私があなたの頭を叩くと、あなたの催眠術は解かれます。」

ジョス「やぁ、ミルコ。」「起きて…やぁ、キック。…どうだった?」

キック「今起きた、って感じだけど。」

ジョス「じゃぁ、催眠術でどんな世界を体験したか見てみましょうか。」

キック「はい、ぜひ。」 

(テレビモニターで、自分が催眠術にかかっている時の様子を見つめる実験者たち)

ジョス「ヘティ、どう思いました?」

 ヘティ「身体中に寒気がしました。」

他の実験者「本当にひどいですね。」

キック「(これが自分自身の身に起きたら、)家族のために、自分は何ができるのだろうかと思いました。」 

ジョス「実際にこれを体験した人に会いたいですか?」

実験者のひとり「ええ、ぜひ。」

(すると、ヒジャブを被った小柄な女性が歩いてくる。)

ジョス「…彼女はマーワさんです。」

キック「ハグしてもいいですか?」

ミルコ「ハグしてもいいかな?」

他の実験者「本当に大変でしたね。。」

他の実験者「怖かったでしょう。」

実験者のひとり「これがまさに、あなたが体験したことなんですか・・・?」

マーワ「はい。」

キック「あなたが僕らの国で歓迎されることを願うよ。今は安心して暮らせてるといいけど。」

マーワ「忘れようとしたんですが…」

(難民と実験者たちの会話の様子にキャッチコピーが入る)

タイトル:あなたの理解なしに、難民たちの行き場はない。

アムネスティ・インターナショナル

出口が見えない難民のニュースにすっかり慣れ、感覚が麻痺してしまった我々を立ち止まらせ、もう一度彼らについて考えさせてくれる、素晴らしいストーリーだと思います。

 

ドローンはすでに、世界を変え始めている。- Drone for saving life in Rwanda

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日本では忖度なしに飛ばすのが難しいドローンですが、今回はドローンを使ってすでに世界を変え始めているアメリカ西海岸のスタートアップ企業、Ziplineの素晴らしい取り組みをご紹介します。 

まずはルワンダで事業を始めたばかりの2016年10月に、TechCrunchに紹介された動画をご覧ください。やっていることはもちろん素晴らしいですが、ドローンの着陸方法が大胆で目を奪われます。


Zipline drones airdrop medical supplies to African villages

 要約すると、Ziplineはアフリカの僻地に医療品を配達するドローンのデザインと製造、オペレーションを手がけている会社で、ルワンダ政府を顧客に、輸血用血液の輸送を手がけているそうです。輸送方法は、カタパルトから発射されたドローンをコントロールし、指定された場所に医療品をパラシュートで投下するというもの。任務を終えたドローンは空母に着陸する戦闘機よろしく、ワイヤーに自らを引っ掛けて着陸します。これも、滑走路を整備するのが(おそらくコスト的に)難しいという制約から生まれたアイデアだそうですが、ローテクなのにとても未来を感じます。

また医療品の倉庫のそばにカタパルトを置いているので、余計な流通センターもいらず、シンプルに政府のコストを減らしつつ、人々の命も救えるという、まさに一石二鳥のアイデアだといえます。 

そして半年後の2017年7月にFRANCE24に取材された、後日談がこちら。


Rwanda: Zipline, the drone delivery system who revolutionizes healthcare

 去年の7月現在で、ドローンの稼働回数は750回以上、ルワンダの21の病院にすでに血液が届けられ、多くの人々を救っているそうです。最後のお医者さんの「本当に助かっている」という言葉が印象的ですね。

誰もが簡単にメーカー(製造者)になれる時代。このZiplineのように、個人個人がアイデア次第で世の中をよりよくできる時代の波が、遂に来たのを感じています。

“乗るしかない、このビッグウェーブに!”

という気持ちにさせてくれる、気持ちの良い取り組みでした。